自分ごととして動くこと

地元に戻ってから、東京で出会った夫と結婚。市役所でも仕事は楽しいと思える感覚は変わりませんでした。保育園、ひとり親家庭、虐待等、児童福祉に関することを幅広く仕事をさせてもらいました。そのうち、ある気持ちが芽生えてきたんです。

「今の仕事を行政とは違う形でやってみたい」って。

出産後、市役所を退職。私は子育てをしている母親がお互いに語り合ったり、学び合ったりする場所を作りたいと思っていました。佐賀市内にある商業施設の空き店舗を使い、『poco a bocco(ポコアボッコ)』として運営していくことになります。

この名前の由来は、スペイン語で「poco a poco」=少しずつ、ゆっくりゆっくり」という言葉と「ひなたぼっこ」という言葉をミックスさせたものです。

そこで毎日色々なイベントも開催。フィットネスを教えるための資格を取得して、私が講師として教えることもありました。ありがたいことに色々なママたちに足を運んでもらいました。

しかし、運営していくうちに、事業の継続性やリーチしたいと思っている人たちへのアプローチ法等の課題が浮き彫りになってきたんです。次のステップのことを考え始めていたので焦りを感じていました。そんな時、佐賀市内にある空き家を使わせてもらえる話が舞い込んできたんです。

そこは現在私たちが拠点として使っている場所です。数年前から運営しています。産前産後ケアや子育てのための講座、ヨガなどのフィットネス等を展開しているところです。

その中でも、フィットネスサーフボードをメインにやっていこうと思っていました。しかし、新型コロナウィルスや私自身の怪我もあり、またも思い描いていたことが実現できずに途方に暮れることになります。

私は「うまくいくだろう」と思っていたことが結局蓋をあけると全然うまくいかないことが多かった…。そうしていくうちにわかってきたことが絶対的なものはほとんどないってこと。

自分で「こうだ!」と思ったら、それを絶対実現させたい気持ちが昔から強かったタイプだったんです。誰かが決めたことに対して動いたときの満足度と自分自身が決めたことに対して動いたときの満足度って全然違いますよね。

だから、ほんのちょっと前までは、私の周りの人は、自分のやりたいことを主張するより私の提案を待っていることが多かったかもしれません。

でも、今は違います。例えば、助産師さんが出産前のママたちに向けて講座をしたいと思ったら、その人たちがやりたいことを形にできるように私の強みの部分でフォローしています。

お互いの強みを補完し合うことで「本当にいい形になったな」と思えることが増えてきました。一種の黒子的な役割を担っていると思っています。私の中で「絶対にこうだ」と周りに対して押しつけることがなくなってきたことが一つの成長なのかもしれません。

ウィンウィンな関係

ポコアボッコを始めてから成長したなと思えることがもう一つあります。それは“手放せる”ようになったことです。やりたいことも増えてきて、一人ではあれもこれもできなくなってきました。

そんな状況でも私を信じて一緒に走ってくれる人たちがいます。その人たちも私と同様、それぞれ成長してきました。自分でやりたいことを選び、考え、行動する。そんな人たちだからこそ、すごく安心して任せられることがあるんです。

例えば、ポコアボッコ内にあるショップのSNSの発信。誰もかもがやってしまうと軸や芯がズレてしまって、何をやっているのか・何をやりたいのかが見えづらくなってしまいます。

でも、信頼できる店長に委ねることで、その店長が一生懸命考えてくれたショップのブランドが出てきました。SNSを見てくれたり、実際に足を運んでくれたりするお客さんにポコアボッコのショップの色が伝わってくるんです。

運営を始めた頃は、ほとんど一人で何もかも抱えていました。役割分担がしっかりしてきて、それに合う人たちが集まってきたからこそ、気持ちがとても楽になってきている自分がいます。

以前の私なら、自分がやりたいと思ったことを手放すことはありませんでした。譲れない気持ちが強く、辛くても一人でずっと抱えていたかと思います。

先日、助産師さんによる出産前のママ向けの講座が開催されました。この講座で私はパソコン操作等、進行がスムーズに行くようにサポート側として携わっています。

講座を進行していく中で、参加してくださっているママたちから、どんどん質問が出ているのを見て「この講座を開催していることって価値があることなんだな」って感じたんです。コロナ禍で「なんとかママ達をサポートしたい、でもその方法が分からない!」と悔しい思いをしている人がいます。

でも、そんな人でもオンラインの講座なら無理せず、自分の力を発揮できたりするんです。カメラの向こう側では、そんな助産師さんの専門知識を必要としている人たちが待っています。

皆、それぞれ支援者なんですよね。無意識だけど、ママたちは助産師さんの活躍の場のきっかけを作る意味で支援しています。そして、私はそんなマッチした出会いがうまく提供できるように影で支援する。それが実現した時に「この仕事は楽しい」と心の底から思えるんです。本当、ウィンウィンな関係ですよね。

私はポコアボッコを立ち上げる際、母親という当事者でした。だから、産前産後ケア等を展開していきたいと思ったんです。もし、自分の子供が障がい者だったら、アレルギーだったら…。それらに近いことを展開していたかもしれません。

だから10年後20年後、自分が何をやっているのか全く想像がつかない。それでもやるべきことは変わりません。誰かがやりたいと思ったことに寄り添い、それに対して私ができることで支えていく。

そして、私ができない部分は違う誰かに支えてもらう。その繰り返しの先に、私も周りにいる誰かも心の底から「幸せだ」と思えるような瞬間を一つでも創っていきたい。そう思っています。

(終わり)

前編はこちら

話し手:寺野幸子(NPO法人poco a bocco
聞き手:上泰寿(てまえ〜temae〜編集長)
インタビュー日:令和3年5月8日
インタビュー場所:NPO法人poco a bocco

●編集後記
今回の取材時、助産師さんによるオンライン講座が開催されていました。映像に映るのは助産師さんとオンラインの参加者。寺野さんは講座がスムーズに進むように機材をセッティングしたり、後方から助産師さんたちのサポートをしていました。その姿を見て思ったんです。「あ、僕も似たようなことやっているんだな」って。僕もどちらかというと、何かやりたいと思っている人をサポートする側の人間です。だから、そのような人たちができないことを見て判断して、さりげなく手を差し伸べる。そんなことをやっています。
寺野さんのインタビューを通じて、ウィンウィンな関係というのを改めて考えさせられました。僕は正直自分のことで必死だったので、あまり意識したことはなかったけど、僕もサポートされる側も参加する側も何かしら手を差し伸べ合っているんですよね。三者がいて初めて成り立つし、それがあるから皆ハッピーになれる。そう考えるとこれからも支える側として、もっと楽しくやっていけそうな気持ちになってきました。
取材中、寺野さんがすごい和かな表情で助産師さんを見守っている姿が印象的でした。助産師さんたちも参加者も楽しそうで…。今展開されていること以外でも、きっとこんな光景がこれから一つずつ増えていくんだろうなって予感がしました。
寺野さん、助産師さん、今回は本当にありがとうございました。

上泰寿(かみさま)

上泰寿(かみさま)

フリーランス。鹿児島県出身。10年間市役所に勤務し、現在は編集者見習いとして、「聞くこと」「書くこと」「一緒に風景をみること」を軸に基礎的な力の向上を図っている。