「かみと生きる、かみと暮らす」をテーマに、越前和紙の地で手漉きの襖紙の老舗として様々なデザインの襖やインテリア和紙を手がけている、福井県越前市の株式会社長田(おさだ)製紙所。そこで、和紙づくりや商品開発、発信などに携わっている長田泉さんに実家へ戻ってくるまでの経緯、戻ってきてからの動きや思いについて話を伺いました。

海外に行きたい気持ちが全ての始まりだった…

私の実家は『株式会社長田製紙所』という和紙を製造する会社を営んでいます。地元である越前市の今立地区で育ってきましたが、高校を卒業するまでは実家を継ぐことを全く考えていませんでした。むしろ、高校卒業したら、実家に帰らずに違う仕事をしよう、そんな気持ちでいました。

高校3年の時、今後の進路について考えていて、色々調べていたら海外に行ける学科がある大学を見つけました。当時、私はテレビで海外の旅番組を観て、海外に行きたい気持ちがあり、その大学に進学することにしました。恥ずかしい話、夢があったなどではなく、純粋に「海外に行きたい」という理由から選択しました。ミーハーみたいなものです。

大学では自分の気持ちを突き動かした経験が2つありました。
1つは、大学2年の時にバーミンガムに留学したことです。10ヶ月くらいでしたが、時間があれば、観光目的でヨーロッパ各国を旅行しました。「日本に帰ったら、中々海外を安く旅行できるってないな」と思い、興味本心でひたすら旅行したのを覚えています。

もう1つは、大学3年の時にマーケティングや経営学を学ぶゼミに入ったことです。ゼミでは、新しい商品開発を企業と一緒にさせてもらったりしました。ゼミで学んでいる時間を通して、実家で越前和紙に関する仕事をするのもいいなと思いました。

その理由として、マーケティングや経営学って、ものづくりにも直結していると感じたからです。実家に帰ったら、商品が多いので、商品を工夫して自分で売ってみたい気持ちが強くなりました。高校まで実家の手伝いはしていませんでしたが、工場の様子を遠くから見ていて、「作ることじゃなくても、それ以外で自分のやりたいことを通してサポートできることはないかな」とモヤモヤする気持ちの自分がいました。

その時からです。実家の和紙工場を継ぐことを意識始めたのは…
ただ、大学卒業してすぐに実家を継ぐのではなく、その前に好きなことを全部やっておこうと思いました。

”知的好奇心を満たす旅”がもたらしたもの

バーミンガム留学の経験を通して、海外を回れる仕事をしたい気持ちも芽生えていました。就職活動をしていく中で、ある会社に魅かれました。その会社は海外の秘境専門で、当時、日本にはあまりないタイプの会社でした。

毎月必ず海外に行けることもですが、特に面白いと思ったのは、1つの国に限定せず色々な国の添乗を社員に任せる方針だったことです。「わあ、本当に毎月海外に行ける、しかも色々な国に!そんな会社ってないよな」と思い、内定が決まったら他の会社は受けず、その会社に就職しました。

私の仕事内容は、添乗員としてガイドすることと、それに加えて現地の会社がツアー計画通りに実行しているかチェックすることでした。『知的好奇心を満たす旅』をテーマにツアー企画している会社でもあり、この場所は本当に知的好奇心な場所なのか・歴史的にどう面白いのか、についてお客さんと同じ目線で一緒に楽しめたり旅行できたりする拘りのある会社でもありました。

その点も、この会社に就職した理由の一つです。ツアーに参加するお客さんも、会社が掲げているテーマに近い感覚の方が多く、お客さんが良かったと思った部分と自分が良かったと思った部分が同じだった場面がたくさんありました。誰かと共感する喜びを覚えたのは、この会社通じてだと思います。

しかし、私が社会人経験も浅かったせいか、未熟だなと感じる部分も多かったなと思います。お客さんに対する深夜・早朝の対応、食事の時の挨拶や紹介など、それらを毎日やっていると辛いなと思う部分はありました。

運良く、部署の中で尊敬できる上司にも恵まれ、最初から最後まで仕事をやり切るまでの責任の持ち方を学ばせてもらいました。そのやり方や学びは実家に持ち込んでいるくらい、今でも活きています。

会社を辞める時期は就職する前から決めていて、3〜4年と区切りをつけていました。私が実家に戻る前にやりたかったこと、それは海外に行って添乗することでした。きっとそれは、実家に帰ったら海外に行ける頻度が結構減ると思っていたし、仕事として行きたい場所で誰かを添乗するって、もう二度とないと思ったんです。

だからこそ、この会社では大変なことも多かったけれど、それ以上に前向きに楽しんで仕事ができたかと思います。そして、就職して3年経過し、以前から考えていたとおり、会社を退職、実家の『長田製紙所』へと戻ることにしました。それが3年前のことです。

後編はこちら

語り手:長田泉(株式会社 長田製紙所
聞き手:上泰寿(てまえ〜temae〜編集長)
撮影協力:株式会社 長田製紙所
インタビュー日:令和2年7月14日
上泰寿(かみさま)

上泰寿(かみさま)

フリーランス。鹿児島県出身。10年間市役所に勤務し、現在は編集者見習いとして、「聞くこと」「書くこと」「一緒に風景をみること」を軸に基礎的な力の向上を図っている。