“作る”ことからではなく、“伝える”ことから
実家に戻り、まず行動に移したことは紙漉きの技からではなく、ホームページの作成からでした。うちの会社は商品を作ることだけやってきたので、お客さんに商品を知ってもらうために発信することからスタートさせました。何をやっている会社なのか、お客さんにわかりやすいように文章を書いたり、商品の写真を撮ったりしました。
行動に移したものの、元々そのような経験はなく、文章や写真で納得がいかないものがあれば、気づいたときに修正しています。扱っている商品が多いため、HPを作ったとはいえ、お客さんにとって見づらいのでないかと感じ、商品を分類する・整理する作業も行いました。
次に、工場内の空きスペースを使って和紙商品の対面販売をすることにしました。地元の人たちは和紙を作っている会社だと認識していますが、福井県内でも越前市から一歩外に出ると、今立地区が越前和紙の産地であることを知らない人が多いのが現状です。
今まで作ることに特化し、売ることや伝えることをしてこなかった私たちにも問題はあったかもしれません。だからこそ、お客さんと直接顔を合わし、商品ができる過程や背景、越前和紙について話すきっかけとなる場所が必要と感じたんです。
実際、対面販売をすることで、お客さんとのコミュニケーションが増えました。商品の販売だけではなく、今まで電話やメールで注文を受けていたことも、直接話すことで商品のイメージの擦り合わせができるようになりました。
今はコロナショックの影響もあり、直接話す機会は減りましたが、商品のイメージをスケッチで作成したり写真を撮ったりして、そのデータをお客さんに送って確認するようにしています。それまでは、商品を作っている最中に「これで大丈夫なのか?」という不安もありました。
見えなかったものが見えるようになってきた、そう実感することで安心して紙漉きや販売ができています。最近では、お客さんの声からアイデアが生まれることも増えてきました。
私は何をやるにしても「○○をしたい」と思って突っ込んだら楽しんでいけるタイプです。「これをこうしたらこうなるのではないか」という考えはたくさんあります。自分の思いや考えを実行できる仕事ってやりがいがあると思うんです。それは、実家だから自由にやらせてもらっていることが一番大きいかもしれません。
義務ではなく、自然に残っていく産地を目指して
越前和紙の産地である今立地区は職人さんの一体感が強いと思っています。その背景の一つとして、お祭りが挙げられます。5月と10月に年2回、紙の神様を祀るお祭りが開催されるのですが、そのために1ヶ月前から会議をしたり、本番の3日間で一緒に濃い時間を過ごしたりすることで一体感に繋がっているんです。
また、同世代で構成された越前和紙青年部があり、毎月飲み会を通じて、お互いの悩み・不安を冗談交えて語る機会が設けられています。次期経営者の集まりでもあるので、どうやって売る・作る話もあり、そこで教えてもらうことも多いです。
普段の関係性から生まれたものは連帯感だけではありません。お客さんがお店や工場に来たときに他の工場を紹介したり宣伝することで人の流れを作ったり、同じような商品を作らず棲み分けをしたりしています。
「どうしてそのような動きができるのか?」と質問されることがあるのですが、私個人としては、青年部メンバーそれぞれが経営者としての視点もあれば、自分の会社だけで頑張っているのではなく、産地で頑張っている思いがあるからこその動きだと思っています。
伝統産業について、「守らないといけない・継がないといけない」という声をよく耳にしますが、私は、伝統産業は衰退する可能性があると思った上で実家に帰ってきています。衰退するにしても、如何に綺麗に記録しつつ、終わらせられるかって考えることもあります。歴史にも限界はあり、正直、未来永劫続けていけるとは思っていません。
「○○しないといけない」、その義務感を負わないほうがいいし、それを負うことで苦しんで終わることは、決して良いことではない…例えば、今取り扱っている商品のうち一部分だけ残すとか、少人数で仕事を回していける仕組みを作るなど、小さいことでも、この状況下で実行し変化できることはあります。自分なりに考えたことを実験的に行い、色々模索している段階です。
自由にやらせてもらっている分、1日1日の中で判断しないといけない場面に直面することも多く、判断する難しさから辛いと感じることや、頭がいっぱいになり、気持ちの余裕を失うこともあります。そんな時は両親や周りの職人さんたちに相談をします。両親は勿論ですが、職人さんたちは年齢が離れすぎているからこそ、仕事のやりやすさがあるのかもしれません。
“守らないといけない”のではなく、“伝える”や“残せるものを残す”といった先に何が待っているのか、今の段階では上手く言語化はできません。それは「何のために、この仕事をしているのか?」という問いに直結してくるかと思います。
「○○をしたい」、そんな自分の気持ちを大事にしつつ、現状のニーズに合わせて、作られるところから消費まで一貫して無理のないものづくりができるように、実家や産地の人たちと一緒に少しずつ変化していきたいです。
(終わり)