あるがままで

何もやりたいことがない中、就職活動で唯一受かったのが企業への売上拡大を支援するサービス会社でした。そこの研修は厳しく、途中で逃げ出す社員もいるくらいの会社だったんです。

そういう環境にいたので、メンタル的に非常に強くなりましたし、就職するまで扱うことができなかったパソコン操作もできるようになりました。

その後、プロバイダーのコールセンターやホームページを作成する仕事をさせてもらったのですが、ある程度時期が経つと、仕事に対して飽きてしまっている自分がいたんです。

その時は20代半ばだったのですが、色々と転々としながら「私の本当にやりたいことは何なのかな?」って思っていた時期だったと思います。

興味があったことに対して、実際働いてみて、自分の思っていることと仕事の内容がマッチするかどうか試していたのかもしれません。

そんな中、心理学(アートセラピー)を学べる専門学校との出会いがありました。アートセラピーを学んでいく上で、まずは自分の心の内をちゃんと向き合わないといけないと思ったんです。

20代半ばまではずっと自分が知らない外の世界を見てきました。自分と向き合った結果、幼少期の自分に辿り着いたんです。幼少期の私は、“できる”環境や状況だったはずなのに、実行に移せなくて“できない”ことがたくさんあった…。

それだったら、今の世代の子どもたちには、そんな経験をしてほしくない。自分のやりたいことを積極的に表現できるきっかけを子どもたちに提供する場づくりをしたい、そう思うようになりました。

内容としては、森の中で絵を描いたり、何かを作ったりすることで、自分の思いを表現することに繋げられるようにしています。どうして自然の中なのかと聞かれると、それは私自身が小さい頃から自然の中にいることが自然だったからです。

自然って「こうあるべき」とか「こうしなければならない」ではなく“ありのまま”なんですよね。「あなたが何かにならないといけないというわけではないんだよ、あなたはあなたの“あるがまま”でいいんだよ」ということを、言葉ではなく環境そのもので感じてほしいんです。

私自身は先生ではなく、子どもたちと一緒に何かを感じている一人の人間という立ち位置でいます。あくまでも、きっかけの場を提供しているに過ぎないんです。だから、私にとっても発見が多い場でもあります。

このままでいい

6年前、結婚と娘の出産を機に、奈良県橿原市にある夫の実家にて『伝統食カフェ〜楽膳〜』を夫の母(以下:母)、夫、私で開業しました。母は保育園や老人ホーム等で調理師として長年食事を作ってきた経験があります。

私は、その母の経験や腕前が活きるように調理補佐や諸々の調整役です。また、母の個性が出るようにサポートをしたり、お客さんに対してどんなお店が見えやすいようにしたりすることも常に意識していて、一種の黒子役を担っています。立場は店長なんですけどね。

調理師として個性を出している母、オーナーの立場で色々と助言やサポートをしてくれる夫、そして、その二人の意向やお店の状況を見ながら調整する私。まだまだ至らない点は多いですが、バランスを何とかとれているんですよね。

正直、橿原に引っ越す前までは、この土地でこういう仕事をすることは全く考えていませんでした。夫から「橿原でこういう店をやるで!」と言われた時に、「えっ?」と驚いたのを今でも覚えています。既に夫は、その言葉を実現するために動いていました。

私自身、実の母がガンで亡くなった経緯もあり、食事の大切さを痛感していたので、このお店を始めることに賛同し、夫の意向に乗っかることにしたんです。

「何とかなるやろ!」
そんな気持ちでした。

このお店の黒子として意識していることがもう一つあります。それは、“次の世代に繋ぐバトン”です。母の味や意志を黒子の私を介して娘に引き継いでいく…。

そうすることでレシピを掘り起こしたり、娘が実際母親になった時や、娘だけではなく娘の周辺にいる人たちに対して引き継いだりすることができます。

時間はかかるけど、その時間で感じてきたことをどう次に生かしていくか次第で、私の今後も変わってくると思うんです。それは、20代半ばで職を転々としていた私が子どもたちに対して場づくりを始めた時と同じかもしれませんね。

「自分が今後何をしていきたいのか?どこに向かっていきたいのか?」

今の私はそういったビジョンを描けていません。ただ、将来お店の中で黒子としての役割を終えた時、今やっていることの延長線上に何かがあると信じています。

英語を好きで勉強してきたけどやりたい仕事が見つからなかった時代、色々とスキルを身につけながら職を転々としていた時代、何とかなると思いお店を始めた時代、そして今。何もかも、一つの線に繋がっていると思うんです。

どの時代も先のことを思い描くことはできなかったけど、共通していたのは“自然体”でいたこと。
だから、これからもこのままでいい。そんな気持ちです。

(終わり)

前編はこちら

話し手:桝岡未佳(伝統食カフェ〜楽膳〜 店長)
聞き手:上泰寿(てまえ〜temae〜編集長)
インタビュー場所:伝統食カフェ〜楽膳〜
インタビュー日:令和3年1月9日
●編集後記
自然体でいること。
それは簡単なようで難しいことだと思っています。どうしても周りの目が気になったり、今後の道筋が見えていなかったら焦りを感じたりしてしまう人は多いのではないでしょうか?

僕は以前、どうしても周りの目が気になってしまうタイプだったので、作ってしまった自分を演じていたかと思います。ただ、ある時から「こんな自分でもいいんだ」と思えるようになったんです。

それは、今までのことを考えていて、結局、何となく過ごした日々の延長戦上に今があって自分があることに気づいた時からでした。そこから、不思議と周りの目を気にしないようになったし、自分に自信がついた気がします。
今後のことについても具体的なことまでは詰められていないけど、やってきた先に何かがあると思うと不安が少し和らいできました。今回の未佳さんの取材を通して、自分自身が一番過去や未来のことを自然体で見られるようになったかもしれません。

あと、黒子という点で未佳さんと自分を重ねてしまうことも多かったです。黒子は中々、外から注目してもらうことは中々ないけど、とても大切な存在。僕の中で編集者は黒子だと思っています。

だから、黒子であることも誇りに思っているし、やりがいもあって、その立ち位置が大好きなんです。そんな自分の気持ちと意志も再確認できた気がします。

未佳さん、『伝統食カフェ〜薬膳〜』の皆さん、今回は本当にありがとうございました。

上泰寿(かみさま)

上泰寿(かみさま)

フリーランス。鹿児島県出身。10年間市役所に勤務し、現在は編集者見習いとして、「聞くこと」「書くこと」「一緒に風景をみること」を軸に基礎的な力の向上を図っている。