コツコツやっていくこと

「面白そうだな」

ネットの広告を見て直感的にそう感じました。募集の内容に書かれていた0から1を作っていくことに特に興味を惹かれていたからだと思います。すぐにその週の飛行機のチケットを予約して、大山へ足を運びことに。

直前の予約だったので片道4万円ほどする金額でした。でも、僕の中では高いと思わなかったんです。だって、熱量が高いうちに足を運ぶのが大事でしたから。

その時は、大山もですが、鳥取県に足を踏み入れることすら初めてでした。大山は「だいせん」と読むのですが、その時の僕は「おおやま」って読んでしまっていたくらい、何も知らない状態だったんです。

僕が行った時期は11月でした。紅葉がとても綺麗で、更にそこに雪が積もっていました。その光景を見た時、季節を二つ同時に味わえる景色なんて見たことがなかったので、「すごい!ヤバイ!」って思ったんです。

僕は学生時代に日本中を自転車で周っていたのですが、その自分ですら知らないってことは、大山の素晴らしさを知らない人は多いなと感じました。だから、この場所で自分の感覚を形にしてみたいと思ったんです。

地元の人たちとも交流させてもらいました。運よく、地元の行事があったり、そこから地元の人を紹介してもらったりして、輪が広がっていったんです。会う人会う人がオープンな人ばかりで。

色々な人と接しているうちに、大山だったら自分のやりたいことができるかもしれないと思ってきました。当時の僕は、その感覚を「ヤバイ」としか言語化できていませんでした。

そして、地域おこし協力隊(以下:協力隊)として大山に引っ越すことになりました。やりたいことができて、自分の未来のためにそのまま返ってくることができる仕事でした。だから、毎日楽しく仕事をすることができていました。

しかし、1年経過し、自分がやりたい“暮らしに触れる観光“を立ち上げるために、協力隊を辞めることになります。
協力隊当時、旅行会社のツアーのお手伝いをしていた時のことです。ツアーが終わった後に農家さんが「今、繁忙期なんだよね」とボソッと言っていて…。

だから、自分自身がツアーを作るときは、お世話になる地元の人たちにとって良いタイミングで開催したいと思ったし、そういった大山の人たちの暮らしを知りたいと思いました。

あと、持続可能な観光プログラムを作ったとしても、逆を言えば、それは僕がいなくなってもできるのでは…。そう思っている自分がいました。僕は大山で自分だからこそできることをやりたかったんです。

協力隊を辞めた後は、農家さん、漁師さん等のお手伝いをすることになります。シンプルにその人たちの日常を知りたい気持ちがあって繁忙期や閑散期、そして雨の日等、色々な状況のリアルを知ることができました。

こういった手伝いは自分がやりたいと思っている“暮らしに触れる”に全部直結してくるものです。もしかしたら、他の人から見ると、ただ単にアルバイト生活をしているように見えていたかもしれません。でも、僕にとっては必要な過程でした。

実際に僕がそういった人たちの暮らしを体感し、信頼関係を作っていくことで、入り口ができてきました。僕が言う暮らしは、大山の人からしたら日常であり、観光客からしたら非日常なものです。ただ、両者は分断されていて、観光に来ても、大山の日常に入るのは難しくて…。

だから、その両者を通す入り口が必要だと考えました。その時にお世話になった農家さんや漁師さん等は今でも手伝いをしていますし、友人が来た時に案内しています。

協力隊だから大山のことをやっていたわけではなく、大山のことをやりたくて、その制度がたまたま協力隊だっただけなので、協力隊を辞めてからも、今も変わらず全部大山に紐づいたことをやっています。

僕は昔から、目の前のことに集中してしまうタイプです。容量の良さ悪さも考えず、どんなことも、時間をかけてやっていくので、かなり泥臭く見えるかもしれません。コツコツ一つ一つが積み重なり変わっていくのが好きなんですよね。その過程を楽しんでいるんです。

そして、基本的に、この先何をするのか読めない形で動いているので飽きないんだと思っています。僕の中では計画はあくまでも補助線、直感が本線なんです。

その時に出会った人や出来事を自分のものとして100%吸収していって、何かがあったら、それらをうまく組み合わせていっています。

自然に芽吹くように

大山は11月〜3月の時期は雪が降ります。その時期を利用し、僕は東京や地方の友人たちの場所で『大山パーティ』というイベントを開催していまして。大山の美味しい食材を食べながら、大山のことを身近に感じてもらう・好きになってもらうための場です。

基本クローズドで、友人がその友人を連れてくることまではOKにしています。そのため集客はしていません。仲良くなったり、親近感湧いたりするきっかけって共通する友人がいることだと思うんです。

だから、それぞれ気を遣わず、楽しく過ごせています。実際、大山に足を運んでくれるようになった人たちもたくさんいました。そういった人たちが遊びに来たら、お世話になっている農家さんたちの所に連れていったりして、大山の暮らしに触れてもらっているんです。何より自分が一番楽しんでいるかもしれませんね。

鳥取は遠いって思われがちなところがあります。逆を言えば、その遠いイメージがわかった上で足を運んでくれる人たちは間違いなく自発性がある人たちです。

だから、遊びに来てくれた時点で楽しめる心持ちがあるんですよね。僕は大山を楽しめる方法を知っているから、そういった人たちはきっと100%、いや、1000%楽しめると思います。

ただ、それは一人ではできません。楽しんでもらうためには、その場その場で地元に根差した人の協力が必要です。例えば、芝農家さん、酪農家さん、素潜り漁師さん、木工職人さん、住職さん、野菜農家さん、果樹農家さん等、挙げたらキリがありません。

そんな鳥取大山で暮らす人の協力があるからこそ、根っこから大山の魅力を伝えることができています。

大山に住み始めて6年目。1日1組の『トマシバ』というグランピングサービスを始めました。鳥取は全国有数の芝生の生産地です。芝生畑の真ん中にテントを張り、北には日本海、南には大山があり、それを眺めながら芝生の上でゆっくりする贅沢な時間を味わってもらいます。

そんなトマシバが生まれたのは、大山に足を運んでくれた友人たちのおかげでもあります。旅行って1年に1〜2回しかできない人がほとんどだと思います。

友人や大山に足を運んでくれる人たちは、そんな貴重な時間を楽しむ場として大山を選んでくれて、ぼく自身も大山の案内を通して、一緒に楽しく密度の濃い時間を過ごさせてもらいました。

その中で、友人たちに改めて気づかせてもらえた大山の光るものをしっかり自分なりの形にしていかないといけないと思ったんです。その上で形にしたものなら、全く面識ない人でも絶対楽しんでもらえるなと確信を持てるようになりました。

『トマシバ』は最初からイメージしていたものではありませんでした。大山に来た当初の目的は協力隊として観光プログラムを作るためだったのですから。そこから協力隊を辞めて、野菜通販を始めたり、農家さんや漁師さんの手伝いをしたり。それらも始めるとは想定もしていませんでした。

今やっているシェアオフィスや他の仕事もそうです。全部、直感が本線、計画が補助線の感覚に従ってやってきた先に辿り着いたものでした。

先は読めないけど、その先にどんな花が咲くかわからない方が僕は楽しめるんです。自然と根を張り、そこから枝が分かれていって、芽が出てくるように。自然に動いていくと目の前にいる人や物事を大切にできると思うんです。何より無理がない。だからこそ、地道に続けてこられているんだなって。

今どんどん培ってきたものが重なり合うことによって、色々なことが生まれる可能性が少しずつできてきています。大山に来た最初の1~2年は「こいつは何やっているんだ?」と思われていたかもしれません。

でも、地道に継続していき形にしていくことで、結果的に自分の思いは数年かけて少しずつ少しずつですが伝わると思っています。ちょっとずつ一緒にできる人や自然な関係性の人が増えていったら何でもできるんです。

逆算するやり方とは全く逆のアプローチで進んでいます。自然体であることが一番いいんです。このスタイルは昔からそうだし、これからも変わらないと思います。

(終わり)

前編はこちら

話し手:佐々木正志(トマシバ/シゴト場カケル
聞き手:上泰寿(てまえ〜temae〜編集長)
インタビュー場所:わたげ荘
インタビュー日:令和3年4月4日

●編集後記
僕が初めて大山に足を踏み入れたのは4年前。まーしー(佐々木さん)と東京で会って、大山に行きたくなって、勢いで行ったのを今でも覚えています。その時、芝農家さん、漁師さん、大山の友人たちをたくさん紹介してくれて、それはそれは濃い時間でした。観光名所は全然回っていなくて、大山の暮らしの導線上を地元の人たちと一緒に過ごしたって感じでしょうか。不思議とその一瞬一瞬を鮮明に覚えているんです。ずっと笑っていた気がします。普通に大山に行ったら出会うことができない人たちばかり。その時は当たり前のように会っていたけど、今回のインタビュー通じて、それは僕が知らなかったまーしーの地道な動きと信頼関係の積み重ねがあってこそだったんだなって気付かされました。確かにそうです。普通なら、皆さん自分の仕事で忙しいし、知らない人のために時間を作ろうとは思わない。でも、信頼できるまーしーという入り口がいるからこそ、僕たちのために時間を作ってくれたんだって。どんな場所でも信頼関係を作るってとても時間がかかります。簡単なことじゃない。まーしーのいいなと思うところは、ゆっくり時間をかけて、無理なく自然に関係を作っていることです。どちらかというと僕のそのタイプだと思っています。自然にできるものだから、根付き、気がつけば素敵な花が咲いている。だからこそ、脆くもなく、美しく愛おしく感じる。今回の取材を通して、改めて自分が住んでいる土地の人たちとの関係性の作り方だったり、無理なく自然にやっていくことの大切さを学ばせてもらいました。次回、大山行く時は、どんな花が咲いているんだろうな。
まーしー、大山でお世話になった皆さん、本当にありがとうございました。

上泰寿(かみさま)

上泰寿(かみさま)

フリーランス。鹿児島県出身。10年間市役所に勤務し、現在は編集者見習いとして、「聞くこと」「書くこと」「一緒に風景をみること」を軸に基礎的な力の向上を図っている。