どう価値を高めていくか

初めからやりたいことがあるというわけではなく、これまでの経験や現場で感じたことから「●●やろう」と浮かんできます。それを形にするのが『森林ノ牧場』の商品だと思っています。

ターニングポイントはいくつかありますが、そのうちの一つが『森林ノ牧場』で商品開発した『いのちのミートソース』です。この商品を作ろうと思った背景の根源は、大学時代にネパールで見た光景からでした。ネパールでは、ヤギの首を自分で切り落として食べたり儀式をしたりする風習があります。

市場に行くと、普通に首がない状態でぶら下がっているのを見て、命をいただいているという感覚になったんです。それって凄い大事なことだと思ったし、いつか僕が自分で飼った動物のお肉を自分自身で捌いて提供したい思いも出てきました。

うちの牧場は小規模酪農に取り組んでいて、飼われているジャージー牛は20頭程になります。僕らが一頭一頭名前をつけて、スタッフ全員がその牛たちの名前や特徴を覚え愛情をもって接しているんです。しかし、現実として、ジャージー牛は赤みの肉ということで出荷されても安価の値段で取引されてしまう。

どんなに愛情をもって育てても、人に認められなかったら何の意味もない。安価になるのは市場の原理として仕方がないけど、もどかしい気持ちにもなるんです。そこで「この子たちのお肉を、もうちょっと大事にしてあげる方法はないかな」と思いで生まれた商品が『いのちのミートソース』なんです。


(写真提供:森林ノ牧場 いのちのミートソース)

牧場の仕事って“関係性”であり、その“関係性”を繋げることが仕事だと思っています。ここでいう“関係性”とは、牛の命と人、のことです。それを分断されたやり方がスーパーのお肉パックだと思います。確かに、お金の交換でできる価値だし、捌く手間も省けて楽です。毎回命を感じながらお肉を食べることは重いかもしれません。

でも、せめて牧場に来てお肉を食べる時は、牛の命と人が繋がる瞬間があるといいなと思ってて。それでお肉や嫌になったり、うちの牧場が嫌いになってしまう人もいる可能性だってある…。僕の中では、うちの牧場の仕事はそういうことだと思っているんです。絶対に100はない。

私はマザー・テレサの「愛の反対は無関心」という言葉が好きで、無関心になることほど怖いものはないと思っています。無関心になるから、お肉の生産現場やお肉の裏側って何も知られていない…。色々と知った上でお肉を食べるってことはもっとあってもいいと思うんです。

うちの牧場で育てられた牛たちが出荷される時はグッとなってしまいます。昔、酪農家になったら、そういう時にドライになり「牛の命に対して割り切れるようになるんだろうな」と思っていました。しかし、実際はそうはならなかった。『いのちのミートソース』の取り組みをしてからは逆になってしまったんですよね。

「牛の命をどうやったら価値に変えられるか」

そことちゃんと向き合い、必死に考えることが酪農家の仕事だと思っています。牛は人間のために生まれてきているわけではありません。僕たち人間が牛を食べたいという勝手で飼われています。それは対等な関係ではない。でも、牛を飼う以上は命に責任をもって、どう価値を高めていくか必死に考えてあげることはしたいんです。何が正解なんてわからないけど、酪農家として日々模索しています

一生懸命生きた結果…

先ほど“関係性”についてお話しましたが「仕事を通して田舎の暮らしを作ることが大事」って感じたときに「それって何なのか」と分解して考えた中で“関係性”が出てくるんです。ざっくりした抽象的な言葉にはなりますが…。

例えば、田舎ではキノコや山菜を食べるって自然と人との“関係性”が出てくるけど、それを都会で食べるなら、お金を出して通販で買うことができる。お金で交換することで、関係性が分断されているんです。しかし、田舎では、お金の交換ではなく、直接自然と人の“関係性”があるからそれらを食べることができる。それは岩手で働いていたときに感じました。

この“関係性”を人に置き換えてみると、隣近所のおばあちゃんに子供を看てもらうって田舎の良さだけど、都会では“関係性”が分断されているから保育園に預けないといけない状況になってくることだってあります。お金で解決できちゃうんです。確かに、お金で解決することは便利だし、人間関係が煩わしい・面倒臭いことさえ出てくる。お金で解決できるのであれば、都会に住むのもアリだし、それが悪いわけでもない。それぞれの好みの話になってきます。

僕は田舎で暮らしたかったのに、一方で若い人が出ていく現状を見て「仕事をつくるのが大事だな」と感じました。それと同時に「僕がやりたいと思っていた酪農は田舎にしかできない」とも感じたんです。田舎で仕事を作るって色々な手段がありますが、僕はやっぱり自然を使った仕事が得意なやり方だなと思いました。

牧場を通して、牛がいることによって、牛が自然と人を繋げてくれる。元々『森林ノ牧場』がある山には誰も来ない場所でした。牛がいることによって、ここに遊びに来てくれる人たちがいるんです。それは、ソフトクリームを食べるとか、バターを購入するとかもですけど、一人でボーっと放牧されている光景を見て癒されるだけでもいいと思っています。

この牧場は、牛がいることで、たくさんのことが生まれてきた場所なんです。森があるから入れるわけではなく、異質なものがあるからこそ、興味が湧いてくるんですよね。

僕の中ではビオトープの取り組みが“関係性”について語る上で大きいと思っています。震災後に生き物を専門とする方を知人通じて紹介してもらいました。その人が牧場に遊びに来てくれたので、一緒に牧場を歩いていると「あ、こっちには○○がいる、あっちには△△がいる、素晴らしい環境だなあ」って言ってくれたんです。

僕はその方がそう言ってくれるまで、この場所を牧場としてしか見ていませんでした。そこから牧場で定期的に生き物の観察会を行うようになったんです。すごい楽しかったな…。この取り組みは、生態系に特化した観察会なんですが、「生き物って皆、関わり合って生きている」って教えてもらいましたね。

「生き物たちは木があるから生き物たちはやってきて、その生き物たちがいるから、この場所は綺麗になっているんだ」って。本当、“関係性”で生きているんです。

自然って合理的ですよね。合理的な自然って“関係性”がすごく微妙なバランスであって、そこから自然環境が成り立っている。それは誰かが設計したわけじゃなくて、役割分担を作ったわけでもない。最初から皆そのために進化したわけじゃないけど、それって、皆が一生懸命生きた結果だと思っているんです。自分が得意なこととか、個性を活かして一生懸命生きた結果、それぞれの生物が生き残ったということの結果が生態系なのではと考えています。

人に置き換えても同じことが言えます。僕は楽しいことことよりも、得意なことを伸ばしていくことのほうが大事だと思っていて…。楽しいことや好きなことをやりたいってことは自己満足にしかならない。

人を喜ばせたり、人と繋がれたりするために、ちゃんと得意なことで伸ばしていくべきなんです。人よりも得意なことやできることを伸ばしていけば、人は喜んでくれるし、その結果、楽しい仕事ができる。最初から楽しいこと・好きなことありきじゃない。まずは、そのためにその人が必死に生きていくための得意なことや、武器を知ること。そこからだと思います。

僕の仕事は「如何に牧場にあるものの価値を高めていくこと」について必死に考えていくことです。アイドルに例えると、そのアイドルだけでは意味がないけれど、舞台衣装を準備して、舞台を設定して、その舞台について発信をして、アイドルの可愛さだけではない外からは見えない内面的な魅力を引き出してあげることで、アイドルの価値を高めていく…それと似たようなことを僕は牛や牧場に対してやっています。

本当、その繰り返しなんです。その時その時で導き出す答えや手段は変わってくるだろうけど、その繰り返しの中で答えを見つけていく。それしかないんです。

(終わり)

前編はこちら
中編はこちら

話し手:山川将弘(森林ノ牧場 代表)
聞き手:上泰寿(てまえ〜temae〜編集長)
インタビュー場所:森林ノ牧場
インタビュー日:令和2年11月18日
●編集後記
ある日、友人から贈り物をいただきました。それは「いのちのミートソース」。その商品きっかけで『森林ノ牧場』さんのことを知りました。僕は小さい頃、集落に畜産農家さんが周りに結構いたので、牛は身近な存在だったけど、酪農家さんは遠い存在だったかと思います。

スーパーで買った鹿児島県産の牛乳を飲んで、ヨーグルトを食べて、パック詰にされたお肉を何も考えず食べていました。だから、どこで牛が育てられたのかとか、誰がどう育てているのかなど考えたことはありませんでした。ふと『森林ノ牧場』さんのHPを見ると、一頭一頭を生まれてから死ぬまで大切に、かつ、骨・皮・お肉を無駄にしない寄り添い方に心魅かれて、HPから長文で連絡を取り、一昨年(2019年)の12月に山川さんにアポを取り、取材の申し込みに行った次第です。

1週間滞在中、僕は牧場に4日通いました。撮影も兼ねてですが、牧場の1日の流れを自分の目で確かめたかったんです。10時ぐらいに牛たちはそれぞれ放牧地へ向かい、草を食べ、寝転んだりする。そして、それぞれのタイミングで、ペースで牛舎へ戻っていく。日によっては、皆バラバラで移動することもあれば、皆一緒に移動することもありました。

山川さんとのインタビューは牧場を一緒に歩きながら、カフェスペースで2回に分けて実施。牧場では牛たちが山川さんに甘えてきて、山川さんは牛たちそれぞれの性格を把握した上で接しているように見えました(スタッフさんもですが、全員牛の名前も性格も大体把握しているようです)。

インタビューの中で“関係性”という言葉が何回か出てきました。少なくとも、僕は『森林ノ牧場』さんが作った“関係性”があったからこそ、こうやって牧場に足を運び、牛や森のこともほんのわずかでも知ることができた。そして、それは山川さんたちが牧場を一生懸命運営してきたからこそ…。

山川さんの「楽しいことや好きなことをやりたいってことは自己満足にしかならない。人を喜ばせたり、人と繋がれたりするために、ちゃんと得意なことで伸ばしていくべきなんです。人よりも得意なことやできることを伸ばしていけば、人は喜んでくれるし、その結果楽しい仕事ができる。最初から楽しいこと・好きなことありきじゃない。」という言葉には刺さるものがありました。

僕は編集者になるために現地の方のご厚意で取材させてもらっています。それをアウトプットしたものが自己満足ではないか、それは取材される側にとってメリットがあるものなのか、常にそれを必死に意識しながら動いているけど、記事を提出する時はいつもドキドキしている自分がいるんです。

愛あるご指摘をしていただくことが多いけど、その失敗と、そこからの前への進み方次第で、今後関わるであろうクライアントさんや仕事仲間に対して喜んでもらえようになるのではないか。今回取材を通して、自分自身の仕事に対する姿勢や意識を改めて見つめ直すきっかけにもなったかと思います。

山川さん、森林ノ牧場の皆さん、本当にありがとうございました。

上泰寿(かみさま)

上泰寿(かみさま)

フリーランス。鹿児島県出身。10年間市役所に勤務し、現在は編集者見習いとして、「聞くこと」「書くこと」「一緒に風景をみること」を軸に基礎的な力の向上を図っている。