最後に富田祐介さん(以下:富田)・藤田祥子さん(以下:祥子)ご夫妻の暮らしや働き方、淡路島の人たちとの関係性やこれからのことについて伺いました。

藤田祥子編12はこちら)
富田祐介編12はこちら)

チューイングしていくこと

(祥子):旦那さんのトミーと出会ったのは前の会社『FELISSIMO』の先輩から誘われた淡路島のワークショップでした。ちょうど、コミュニティデザインの山崎亮さんの本を読んだりしているときにお誘いいただいたので、淡路島にもそうした活動をしている人がいるんだ!って興味を持ったんです。。

(富田):祥子ちゃんは『シマトワークス』に現在合流しているメンバーと一緒に講座を受講してくれました。当時は祥子ちゃんの先輩で、ふたりともFELISSIMOに勤めていました。嬉しい事に、ふたりともほぼ毎週淡路島に来てくれて、講座が終わったら事務局側と参加者の皆でよく飲みに行っていたんです。普通の講座とは違い、どちらの関係性も濃厚だったと思います。

(祥子):今では笑い話なんですが、酔っ払って楽しくなってトミーが自転車を失くしちゃったんですよね。真面目な人だと思っていたので、一気に距離感が縮まりました笑。そこでトミーが仕事に行っている間、一緒に講座を受けていた先輩と洲本をぐるぐるあるきながら自転車を探しました。その後、無事に自転車は発見!3人で懲りずにまた一緒に飲みに行って、そこから事務局と参加者の枠を越えて仲良くなったんです。

(富田):その後お付き合いを経て、結婚。


(写真提供:ハタラボ島協同組合より  ノマド村のカフェを始めて1年目。祥子さんのお父様と三人でお盆のピークを乗り越えたあと)

(祥子):結婚して一緒に暮らすようになって、お互いに気をつけていることが1つあります。それは家庭内で仕事について話すタイミングです。お互いやっている仕事も違えば、集中している時間も違います。仕事モードが抜けているときに、話しかけられてふたりの空気が悪くなることが何度か重なったんですよね。
「いま、話しかけてもいい?」そう一言声をかけて、話しかけていいかどうか、お互いの空気を確認するようにしているんです。これって、たぶん他人同士だったら当たり前に気にかけることなんですけど、夫婦になるとそのあたりが曖昧になっちゃうんですよね。

(富田):それを急に言葉や決まりでチューイングしていくのは難しいと思っています。一緒に暮らしながら、少しずつ時間をかけて擦り合わせをしてきて、今のライフスタイルになってきているんだと思います。
お互いに「ここはこうなんだな」「これはこう気をつけないといけないな」って。以前「淡路島の仲間たち夫婦の働き方をインタビューしてみるか?」って冗談で言ったことがあります。インタビューはしませんでしたが、軽く聞いてみると皆さんバラバラでした。夫婦道に正解や型はないんですよね。

暮らしの実験

(祥子):私たちは4年前から毎年1月から1ヶ月間、ベトナムで生活するという『暮らしの実験』をやっています。最初に言い出したのはトミーでした。新婚旅行でニュージーランドへ行った時に「いつか海外で1ヶ月くらい生活することができたらいいな」って話になったことがきっかけです。
トミーが独立してしばらくするとすごく忙しくなって。すると思い立ったように言われたんです。「余裕ができても時間がないとか、理由をいろいろ並べてたら、描いてた暮らしっていつまでたってもできない。今年行こう!」って笑。正直、最初の1年目は不安が大きくて「えー絶対そんなの無理」と思っていました。

(富田):月に1ヶ月を海外で生活するって、年齢を重ねてからいくのは体力的に難しいと感じていました。思ったきっかけは新婚旅行の時でしたが、決断したのは淡路島で祥子ちゃんと散歩している時でした。近所の階段を歩きながら「えー!?すごい!」って祥子ちゃんが驚いていたのを覚えています。確かに、人生の中でもあり得ないことですもんね。

(祥子):トミーは仕事を全てオンラインに、私もライティングの仕事だけに集中して、ベトナムで移動しながら生活していきました。最初は不安が大きかったですが、現地に行ったら案外普通に生活していけたんです。大変じゃなかったし、『暮らしの実験』をやってよかったと思えることが多かったです。

(写真提供:藤田祥子さんより ベトナムの街並み)

(富田):年数を重ねるにつれ慣れてきたのか、3年目は“帰ってきた”感覚が強かったです。行きつけのお店に行ったり、ホテル選びも審美眼が効いて良い場所に泊まれるようになったりと変化もありました。
仕事を一緒にしている人たちからは「そういう暮らしをしている」と認識してくれて、ありがたいことに仕事も1年目よりやりやすくなっていたんです。そして、私たちふたりにとってはベトナムに行くことが1年の中にあるリズムの1つにもなってきていて、待ち遠しい気持ちになっていました。

(祥子):淡路島にいるとふたりで散歩することがあまりないのですが、ベトナムにいくと2〜3時間散歩してお茶して。仕事に追われてバタバタ焦ることもなく、一緒にいて3食をともにとる。すると暮らしもすっきり整理されていくような感じがしました。
帰国してからも、日本や淡路島のことが違う鮮度で見れるようになりました。日本にずっといたら生活や気持ちの切り替えが中々変えることはできません。でもベトナムに1ヶ月いることで、こんなに普段見ていた世界の見方が変わるんだと実感しました。

(富田):周りからは「すごいね」「そんなことできるんだね」と言われます。でも、3年やってきて大したことじゃないことがわかってきました。単に好きなところに行って働いたり過ごしたりして戻ってきただけ、という話なんです。
場所を変えたことで違う暮らしがある。だから、もっと色々な可能性を実現できるんだなって改めて実感したし、これからどんな生き方や働き方ができるんだろうなってことを考えるきっかけにもなりました。

(写真提供:藤田祥子さんより ベトナムの市場の光景)

しあわせだと思える瞬間

(富田):僕は仕事を一緒にする人と仲を深めたいと思っています。プロジェクトを終えたあとでも「めっちゃしあわせなことやったな」って祥子ちゃんと振り返るときもあります。だいたい、そういう風に思い出される仕事は、仲間たちの姿がある。そこにしあわせを感じるんです。

(祥子):仕事以外でも、自宅に友人が家に来てくれて、わいわいと一緒にグラタン作ったり、漫画読んでゲームしたり。そういうのも、ちょっとしあわせに感じます。

(富田):「最高だな」って感じるのはそういう何気ない瞬間だったりします。仕事でもそう。だから、仕事やプロジェクトを一緒にする人とは、飲みに行ったりして、時間をともに過ごしています。仕事の時間だけじゃなくて、そういう関係性を築きたいなぁっていつも思います。

(祥子):先日家の鍵が壊れる事件がありました。イライラしたりケンカしたりしちゃったりするところ、まぁなんとかなるな!ってトミーといたら思えるんですよね。この例えは暮らしの中の小さな出来事だけど、そういうトラブルやしんどいことがあった時「楽しくなるにはどうすればいいか」とトミーは常に考えてるんです。
「どうやったら楽しくできるか」ということに関してトミーは天才だと思います!笑。あと、淡路島の仲間たちがいるから「楽しく生活していけそう」「大丈夫そう」と思えるし、淡路島の暮らしが楽しくてたまらないのはトミーや島の仲間たち、島をおもしろい!って訪れてくれる友人たちのお陰だと思います。


(写真提供:富田祐介さんより 今年5月からの新しい拠点のイメージ)

(富田):でも、常に更新し続けていかないといけないと僕たちは飽きちゃうと思うんです。

(祥子):大学時代にアルバイトをしていたパン屋さんの店長が「2年先が見えないくらいがちょうどいい」と言っていたんです。なんとなく頭の中に残ってた言葉だけど、たしかにそうで。私たちの暮らしには先が見えないくらいが楽しくてちょうどいい笑。
まさかノマド村をはなれて、新しい拠点を立ち上げるなんて思ってもなかったですしね。5月には、私たちの暮らす家の近くに新しい拠点をかまえます。

(富田):新しいことをやっていくなら土俵は淡路島なのは間違いない。だって、たくさんしあわせを感じさせてくれる人がいる場所なんてなかなかありませんから。
今後もしかしたら淡路島と海外を行き来する生活なんてこともアリかもしれません。『シマトワークス』の次の拠点を海外のどっかに置いてみるとか。繋がりたい国を見つけて、その国との関係性を強くして、その国の人たちを淡路島に引っ張ってくるようなことも面白そうだと思っています。
結局、僕らは人と関わっていないとしあわせを感じられないんです。接点が仲間や信頼できる人だとより一層感じます。先が見えないことばかりですが、その時間や過程を楽しみながら淡路島の人たちと一緒に「ワクワクする明日」を少しでも多く作っていきたいです。

(終わり)

話し手:富田祐介(シマトワークス 代表取締役)・藤田祥子(No.24
聞き手:上泰寿(てまえ〜temae〜編集長)
インタビュー日:令和3年1月24日
インタビュー場所:喫茶ビエン
●編集後記
4年前から毎年のように遊びに行っている淡路島。僕にとってその入口となったのは今回取材させてもらったトミーさんと祥子さんでした。二人のフィルターを通して知った淡路島で暮らす人たちはとてもいい顔をしていて、1日だけの滞在でしたが、「絶対また淡路島行く」って思えた時間だったのを覚えています。

インタビューの中であったように、できないことを嘆くのではなく、この先をどう楽しむかどうか。僕が会う淡路島の人たちからは、そんな姿勢がいつも感じられるんです。そして、それが自然体で…。皆さんと一緒にいると不思議と気持ちが楽になる自分がいます。

今回の取材では10日間滞在しました。トミーさん・祥子さん以外とも、取材以外の時間で会いに行くことができて、今までよりも、ゆっくりお話することができました。

その中で改めて感じたんです。皆さん、やっていることが違えど、苦しいことがあれど、見えない未来に向かって、その過程を楽しんでいることに。僕は元々計画的に物事を進めるタイプなので、淡路島の人たちに出会うまで、先が見えないことが起きると不安がとても大きくなるタイプだったかと思います。

要するに、無難な未来を選択していたんですよね。でも、僕もトミーさん・祥子さんみたいに、淡路島の人たちに触れて、先が見えないことを楽しめる感覚に少しずつなってきている気がします。

その中で自分が想定もしていなかったことが色々起きてきて、それが良い方向に向かったりすると嬉しいしワクワクするんです。

そんな感覚を持てるようになったのは、トミーさん・祥子さんに出会い、二人を通して淡路島の世界を見れたからです。だから、淡路島で取材するんだったら、この二人しかにいない!そう思ったことから今回の取材に至りました。

トミーさん、祥子さん、淡路島の皆さん。本当にありがとうございました。

上泰寿(かみさま)

上泰寿(かみさま)

フリーランス。鹿児島県出身。10年間市役所に勤務し、現在は編集者見習いとして、「聞くこと」「書くこと」「一緒に風景をみること」を軸に基礎的な力の向上を図っている。